【南ア戦:プレビュー】試合前も試合中も、最高のリハーサルを/テストマッチ
2019.9.5(木)
ラグビー日本代表の稲垣啓太は言った。
「あの試合は、あの試合で完結しているんじゃないですかね」
自国でのラグビーワールドカップ(W杯)を9月20日に控える日本代表は、同6日に埼玉・熊谷ラグビー場で南アフリカ代表とテストマッチを戦う。4年前のイングランド大会では、過去優勝2回の南アフリカ代表を同通算1勝の日本代表が撃破。ノーサイド直前の逆転劇だったこともあり、世界中で「史上最大の番狂わせ」と報じられた。そのため見方によっては、「リベンジか?奇跡の再来か?」といった表現もしうる。
もっとも当事者は、過去ではなく今を見ている。あの日、敗れた南アフリカ代表は、2018年3月就任のラシー・エラスマスヘッドコーチが当時と違って豪華陣容を編成。雪辱を晴らすと同時に、きたる本戦の開幕節(2連覇中のニュージーランド代表と激突!)へのリハーサルをおこないたい。
同じく今度のワールドカップをホームユニオンとして迎える日本代表も、「準備の最終章」とジェイミー・ジョセフヘッドコーチ。故障者を除けばベストメンバーをそろえたと言える。4年前は熱狂のただなかにいた稲垣が「あの試合は、あの試合」と捉えるのも、自然な流れだ。指揮官はこうも続ける。
「コーチングチームが違うので当たり前ですが、全く違うチームに変化しました。南アフリカ代表もこの何年かで成長してきた」
大会14日前の強豪とのバトルを通し、ジョセフは「現状把握」がしたい。具体的には、フィジカル勝負への対応力を見る。日本代表はスペースにパスやキックをさばき、混とんとした状態を作りたい。もっともワールドカップの予選プールで当たるアイルランド代表などは、大きな身体を生かした肉弾戦に活路を見出す。南アフリカ代表も概ねそれに近い戦いを好む強豪とあって、今度の80分は相手の強みにどこまで対抗できるかの「現状把握」ができそうだ。特に注目されるのは、フォワードが8対8で組み合うスクラム。ここ数年の日本代表は、長谷川慎スクラムコーチが「力を漏らさないスクラム」を落とし込むことで相手との体格差を解消してきた。
ところが今年に入ると、スクラムがぺしゃんこになった際に比較的低い姿勢の日本代表がコラプシング(塊を故意に崩す反則)を取られる傾向が強まってきた。今回は細部に微修正を施して臨む最初のゲーム。本番で吹くレフリーへ好印象を与える意味でも、首尾よく組みたい。ジョセフはこうも言った。
「この試合はマストパフォーマンスの試合。セットプレー、タックル、モールでいろんな経験ができる。(ワールドカップに向けた)最後の準備だと捉えています」
当時の南アフリカ代表戦と今の南アフリカ代表戦は全くの別物だが、両者を一定の時間軸が繋いでいるのもまた事実だ。というのも日本大会に向け、2大会連続でワールドカップ日本代表の主将となるリーチ マイケルは「決勝トーナメント進出」「優勝」ではなく「毎試合、勝つ」を目標とする。背景には、4年前の南アフリカ代表戦もあったという。
「前回大会が終わって(当時の)南アフリカ代表の何人かと喋ったら、『僕らは日本代表戦の前に、その後のサモア代表戦のことを喋っていた。先のことを見ていた』と。そして結果は、負けてしまった」
だからこそリーチは、「マストパフォーマンス」が題目のゲームにも勝つにふさわしい準備で臨む。すべきプレーは試合の2日前までに確認し、同時並行で対戦する全選手の強みと弱みを皆で挙げる。まとめて宿の壁に貼り出す…。南アフリカ代表戦への準備は、ワールドカップの1つひとつのゲームに向けた準備の実地訓練にもなる。
(文=向 風見也)
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