ハットトリックの松島幸太朗はなぜ「チームでつないだトライ」と話すのか?
2019.9.26(木)
ラグビー日本代表の松島幸太朗が、ワールドカップ日本大会の開幕戦で3トライを挙げる。戦前に仲間内で宣言していた通りのようで、まさに有言実行だ。
4年に1度のこの大舞台でハットトリックを決めたのは同国代表史上初。もっとも当の本人は、「トライは皆でつないで取ったもの」と淡々。その背景を紐解けば、団体競技としてのラグビーの面白さが浮かび上がる。
この日の松島のトライパターンは、いずれもグラウンドの右端を駆け抜けたもの。任された右ウイングの持ち場で、定評ある加速力を活かした格好。特に後半28分に取った3本目の際は、パスをもらった瞬間に接触しかけたタックラーを振り切っている。
もっともラグビーは、さまざまなポジションの選手が協力し合ってスコアを奪い合う競技だ。3本目のトライの背景にも、逆側のウイングのロマノ レメキ ラヴァによる力強い走り、途中出場したスクラムハーフの田中史朗が防御の裏に蹴ったキックなど、きっかけは多数あった。
さらに松島の「皆でつないで…」という言葉がしっくりくるのが、前半11分のファーストトライだった。
まずは松島自ら、グラウンド中盤でランと防御の裏へのキックを決めて敵陣深い位置まで侵入。相手の反則をもらい、敵陣22メートルエリア前左のラインアウト(空中戦)から攻撃を再開させる。
ここからグラウンド中央で作った接点では、ボールを持っていたロックのジェームズ・ムーアにフッカーの堀江翔太がぴったりとついていて、相手の防御をその場に巻き込む。すると左サイドにスペースができ、待っていた中村亮土が前進する。
ここから右方向へ展開するのだが、まずはフランカーのピーター・ラブスカフニが中村の作った接点のすぐそばでコンタクト。先発スクラムハーフの流大がすぐにパスをさばくと、ボールはスタンドオフの田村優を経て、アウトサイドセンターのラファエレ ティモシーのもとへ渡る。
ラファエレは自分に迫りくるタックラーにランを仕掛けながら、後方へ手首をスナップさせて投げるバックフリップパスを決める。ここでのパスコースには、フルバックのウィリアム・トゥポウがあらかじめ駆け込んでいた。
最後はトゥポウが、飛び出していた防御網の死角へ上手でふわりと浮かせる。ロシア代表は右タッチライン際のスペースには対応しきれず、松島のトライが決まった。
前半38分に決まった勝ち越しトライの折も、左タッチライン際でのラインブレイク、おとり役が相手防御を引き寄せる動き、インサイドセンターの中村亮土によるバックフリップパスが絡んでいる。松島本人は「しっかりどこにスペースがあるかを内(側の選手)に伝えることはできた」と、パスの出し手と受け手の連係を控えめに誇った。
タックルされながら繋ぐさまざまなパスは、今年2月の候補合宿から繰り返し練習してきたスキル。各選手のポジショニングは、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ体制の現代表のシステムに沿ったものだった。ここにロシア代表の防御の状況(極端に前にせりあがりながらタッチライン際を留守にしていた)がかみ合って、速さあふれる松島のトライが生まれたのだ。
28日には、世界ランクで上位を争うアイルランド代表との対戦がある(静岡・エコパスタジアム)。得点機は限られてもおかしくないが、「誰が取るか」と同時に「どう取るか」を注目しながら「チーム」でのトライを期待して欲しい。
(文=向 風見也)
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