アイルランド代表戦は「笛」で差がついた?
2019.10.4(金)
9月28日、静岡・エコパスタジアム。4年に1度あるラグビーワールドカップ日本大会の予選プールAの試合があり、初の8強入りを目指す日本代表が2018年欧州王者のアイルランド代表に19-12で勝った。
日本代表の防御網は「ラインスピード」と「ダブルタックル」を意識。接点付近から向こうの攻撃方向側へ数えて3番目あたりのタックラーが、どんぴしゃりのタイミングで相手の腰元へクラッシュ。付近の選手は相手の手元へ身体を差し込むなど、状況に応じて加勢する。整理されているうえに勇敢な守備は、正司令塔のジョナサン・セクストンを欠く相手をトラブルに追い込んだ。
攻めては数少ない相手防御の切れ目へパスを放り、勢いをつけながらのボールキープを実現。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、準備の質で上回ったと述べる。
「彼らはこの試合については今週の月曜から考えていた。我々はこの試合のためにかなりの時間をかけてきた」
勝敗を分けたポイントには他に、規律がある。
そもそも勝ったリーチマイケル主将は、3つ白星を得た4年前のイングランド大会を「レフリーといいコミュニケーションが取れた」と総括している。この時は予選プール全体で最小反則数を記録していた。
当時の陣営は、初戦の担当だったジェローム・ガルゼスを直前合宿に招聘。グラウンドで質問攻めにし、食事でもてなした。初戦では結局、ガルゼスの傾向を分析したこともあって過去2回優勝の南アフリカ代表を撃破。日本にラグビーブームを巻き起こした。
今回は前回のような手は打たなかったが、日本協会の久保修平レフリーやワールドラグビーから巡回するレフリーのクリス・ポロック氏らと一般的な視点を共有する。
さらにウイングの松島幸太朗曰く、「練習中、高いタックル、グラスカッターの(低すぎる)タックルがあった時は、ジェイミーが止めて、『それはレッドカードかイエローカードになる』と日頃から言っています」。日本代表の兄弟チームだったサンウルブズは今季のスーパーラグビー(国際リーグ)で反則過多に泣いたが、今季は両軍の人員が大きく異なっていた。
そして「静岡の歓喜」と呼ばれる今度の80分。反則数は日本代表の6に対し、アイルランド代表は9。勝った日本代表の長谷川慎スクラムコーチは「(スクラムで)2個のペナルティを取られたのは非常に悔しい。そこを修正しないと、他のチームはそこを突いてくる」と己に矛先を向けるが、笛への対応に苦慮したのはむしろアイルランド代表だった。自陣での反則は日本代表に4本のペナルティーゴールを決めさせ、トライ数で上回りながら黒星を喫した。
敗れたジョー・シュミットヘッドコーチは、「(この日とられた)オフサイド4回のうち3つが間違ったコールだったというフィードバックを受けた」。この発言は、大会公式のメディア用サイトで読める。オフサイドとは、攻防戦より前でプレーをしてしまう反則のこと。
この日に笛を吹いたアンガス・ガードナー氏は今年、アイルランド代表がウェールズ代表に負けた欧州6か国対抗の試合も担当。戦前から日本代表選手の特徴をそらんじるなど侮る気配を見せなった指揮官が、怒りの矛先を自軍プレーヤー以外へ向けた格好だ。
ちなみに「フィードバック」を受けた相手にはタッチライン際のアシスタントレフリーであるジェローム・ガルゼス氏の名をあげていて、ガルゼス氏はアイルランド代表が10月3日におこなうロシア代表戦(兵庫・神戸市御崎公園球技場)を担当する。
もちろん敗軍の将は、日本代表のプレーにはさして苦言を呈していない。ただし自軍の手堅さにも自信を持っていて、こんな発言も残している。
「一般的に言って、私たちが対戦相手よりも高いペナルティカウントを持つことは珍しいことです」
ちなみに日本代表は、すでに「静岡の歓喜」を「過去のこと」にしている。10月5日のサモア代表戦に向け、プロップの稲垣啓太は「テストマッチになるとひとつのペナルティが勝敗を左右する。前回はペナルティを減らすことに成功しましたが、さらに減らすことに集中したいです」とする。
(文=向 風見也)
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