選手に気をつかわせず日本文化の発信を
2019.10.9(水)
ラグビーワールドカップの日本大会がスタートし、2週間以上が過ぎた。
1987年の初回大会以来アジアで初めて開かれている今回の大会では、各国代表とも日本文化を楽しむさまが見受けられる。真剣勝負に心血を注ぎながら試合後にお辞儀をする姿勢は、この国のメディアが好意的に取り上げた。
選手たちの日本文化への敬意がきらびやかに映る一方、選手たちに無用な気をつかわせているのではと思わせる出来事もある。タトゥーのある客の出入り温泉などの公共施設とタトゥーを文化とする国の選手とのマッチングは、かねてより議論の種だった。
さらに10月4日の愛知・豊田スタジアムであった記者会見では、邦人メディアの間でも感想が割れる出来事があった。
「練習を公開していただいた時間、動いていない選手がスマートフォンを触っていました。日本でナショナルチーム以外でもそういうことをするラグビー選手はほぼいないのですが、サモア代表では問題視されないのですか」
このような旨で切り出したのは1人の日本人ジャーナリスト。サモア代表による試合前練習後の記者会見中だった。質問を受けたアリステア・ロジャースコーチは、イヤホンで同時通訳される内容を聞いても意図が分からない様子。改めて内容を聞き返すと、「それに気が付きませんでした。すみません」と応じるのみだ。
本稿で表示できるのは、記者会見が何でも質問できる自由な場であるべきという前提条件、サモア代表が比較的財政難に苦しまされている国であるという事実、ロジャースコーチからマイクを譲り受けたプロップのポール・アロエミレの真っすぐなまなざしと談話が多くの出席者をうならせたことだ。
「その選手は写真を撮って記念に持って帰りたかったんだと思います。この体験を自国に持ち帰りたかったのです。スタジアムがあまりにも大きくて、我々はこんな素晴らしい環境で試合をしたことがない。ただし、これが日本文化にそぐわないのであれば、気の触ったのであれば本当に申し訳ありません。謝罪いたします」
ラグビーワールドカップ日本大会は、極東の文化が世界に発信される機会であると同時に、日本国民が世界中のラグビー選手の心根に触れやすい機会でもある。
(文=向 風見也)
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