フランス大会に向けたリスタートは、すでに切られている
2019.10.28(月)
ラグビーワールドカップ日本大会で8強入りした日本代表が伝えてくれたのは、敵は内なる先入観なり、という教えだった。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いるチームは今年、冬から秋にかけての長期計画を実施。約60名の候補選手をふたつのグループに振り分け、大所帯のほうには強度の低い基礎反復練習を課す。
メンバーを42名に絞った6月からは、朝から晩まで練習のあるタフなキャンプを実施。環太平洋諸国などとのパシフィックネーションズカップで全勝優勝を果たすなど充実ぶりを示し、選手は自信があると口を揃えた。
それでも対戦国の底力との相関関係、勝ったゲームでも球の出どころに圧をかけられていた事実、大会前の南アフリカ代表戦の7-41という試合結果から、「8強、間違いなし」とは言い切れず。一介のラグビーライターがわかることなど、実際に起きていることの100分の1にも満たないのだと心を新たにさせられた。
そのうえで今大会の5戦を振り返れば、積み重ねが奏功した箇所がそこかしこに見られた。
アイルランド代表に19-12で勝った9月28日の一戦(静岡・小笠山総合公園エコパスタジアム)では、前半35分頃に自陣22メートル線付近で相手ボールスクラムを押し返している。
また、そのアイルランド代表戦、さらにスコットランド代表に28-21で競り勝った10月13日の第4戦(神奈川・横浜国際総合競技場)では、ボール保持を重視。向こうの防御の穴を要所でえぐり、その過程で放たれたオフロードパスはお茶の間で流行語になる。
欧州有数の組織的な攻撃力を誇る相手に、その強みを出させる機会を減らす策を打ち出していたのが今大会の日本代表。ただし10月5日のサモア代表戦では、一転してキックに活路を見出す。パワフルな相手を後退させてスタミナを削るためで、結局、愛知・豊田スタジアムでは試合終盤にトライラッシュ。38-19で白星を掴んだ。
この4勝を支えたのは、長谷川慎スクラムコーチが落とし込む8人一体型のパック、トニー・ブラウンアタックコーチが打ち出す変幻自在のゲームプラン。前者は足の踏み込み方や互いのバインドなどすべてにロジックを有し、後者はある一定の枠組みがありながらもその枠組みをその時々で変質させる。ふたつの方針は今年の長期プランはもちろん、2018年以前のテストマッチ、日本代表と連携を組んだサンウルブズ(国際リーグのスーパーラグビー)で磨かれたものだ。
「スクラムについて全員が自信を得ているのは確か。僕らが何かを変えるわけではなく、僕らのいままで積み上げたものを、ディテールを持って遂行する」
プロップの稲垣啓太は大会中にこう話しており、ウイングの福岡堅樹はこう頷いた。
「長いことこのチームでプレーしてきて、ブラウンコーチの考える斬新なサインプレーもいろいろなところでやっている。毎試合、違う準備をするのは慣れていますし、自分自身も『今回はどういうものだろう』と楽しみに待っていることが多いです」
ひとつひとつのプレーやスコアボードに豊饒な背景をにじませたのが、今大会の日本代表だった。決勝トーナメントではスタンドオフの田村優が「5週間プレッシャーの中でラグビーを続ける難しさもありました。5試合連続で出ている選手もいたので、100パーセントの準備をしたいというのと、身体とメンタルのコンディション(を整えること)の(バランスを取る)難しさはありました」と語るように、次回以降の決勝トーナメントで勝ち切るための課題も知れた。
これらのプロセスをどうレビューするか。次回のフランス大会に向けたリスタートは、すでに切られている。
(文=向 風見也)
掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。