決戦への「準備」と「対応力」
2019.11.1(金)
ラグビー日本代表は今秋のワールドカップ日本大会で史上初の8強入り。選手は口々に「準備」が奏功したという。
現体制発足から約3年。スーパーラグビーに参戦するサンウルブズでの時間も活用し、首脳陣の計画を首尾よく遂行する下地を作ってきた。時間をかけた「準備」の結果、本番で試合ごとにゲームプランを変えられた。
イエローカードを1枚ももらわなかった順法精神の裏にも、「準備」が見え隠れ。定期的にレフリーコーチのクリス・ポロックを招き、アウトサイドセンターのラファエレ ティモシーは「個人的には、オフサイド気味の位置に立ってしまう癖を治してもらった」と笑う。さらに指揮官のジェイミー・ジョセフの意識づけにも助けられたようで、フランカーのツイ ヘンドリックはこう続けた。
「練習で誰かが不用意なペナルティを犯したら、罰として全員がゴール前に並んでフィットネスを。そのなかでも、意識が高まりました」
もっともこのチームで特筆すべきは、「準備」の枠外で起きた出来事への対応力だ。
実は今回、試合で使うボールの大きさが練習時のそれとやや違っていた。チームと大会側とで空気の入れ方に違いがあったためか、本番で使うボールが想定より細長かったことが開幕戦前日に発覚した。パスやキックをたくさんするポジションの選手は、「…全然、違う」と驚いた。
それでもロシア代表との開幕戦は30-10で制し、関係者曰く「試合を重ねるごとに問題なく対応できるようになった」。予選プールは4戦全勝。たくましかった。
かねてよりニュージーランド出身のジョセフは、不測の事態に動じない態度を選手に求めてきた。開幕前はリーダー陣が「不測の事態を想定したミーティングを開きたい」と言ってもことごとく却下してきたようだ。選手がボスから聞いた言葉をまとめると、「試合では、どんなことも起こりうる。その場で対応できるようにならなくてはいけない」だった。
ここまで来たら、ジョセフの鍛えたタフネスが躍進を支えたというストーリーが浮かび上がりそう。ところがどうだ。ロシア代表戦でボールの問題が発覚するや、ジョセフ自身が「不測の事態に対応できるよう準備しなくてはならない」と、それ以前に選手が求めてきた趣旨のミーティングを開くよう促進し始めたようだ。選手もかすかに驚く方向転換。これが、8強入りへの「準備」の濃度をより高めたと言えそうだ。
(文=向 風見也)
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