姫野和樹 インタビュー前編
急成長の24歳、若きホープが抱く感謝の想いとは?「W杯で恩返ししたい」
2018.12.25(火)
2019年のラグビーワールドカップ日本大会に向け、日本代表のアイコン候補となっているのが姫野和樹だ。
24歳という若さ。公式で「187cm、112kg」という恵まれた体躯。誰にでもすごさの伝わりそうなパワフルな突進。老若男女を引き付ける怪童の笑み。トヨタ自動車でルーキーイヤーから主将を任されているバックボーン。これらの資質と背景によって、この国のラグビー界有数の訴求力をつくり上げている。
2017年に日本代表デビューを飾ると、翌年には代表の兄弟格にあたるサンウルブズに入り国際リーグのスーパーラグビーへも参戦。急ピッチで国際経験を積んでいる。
自国開催大会に向けたまっすぐな意志と、その原点に迫る。
(インタビュー・構成=向風見也、撮影=長尾亜紀)
親、高校の恩師、大学での指導者と仲間
――小さいころから身体が大きく、運動が好きだったそうですね。
「放課後は毎日、公園で遊んでいました。家でゲームしているよりも、皆で野球しよう、サッカーしよう、鬼ごっこしよう、と。それで、くたくたになって帰るという子どもでした。いろいろなスポーツをやっていくなかで自分の身体の大きさを最大限に活かせると思ってラグビーを始めました。ただ純粋に、楽しかったというのもありました。名古屋はラグビー部のある中学校が多く、ラグビーが身近にありました」
――ラグビーを始めたのは地元・名古屋の御田中学校に入ってから。「ラグビーで人生を切り拓こう」と考えたのは、いつごろからですか。
「ラグビーはずっとするんだろうな、とは思っていました。中学のころから(地元の名門である)トヨタ自動車でプレーをしたいと思っていましたし、本格的にラグビーで生きていけると思ったのは、帝京大学に入ってからですね。それまでは、そんなに将来のことを考えていなかった。単純に、『今を楽しく生きる!』……みたいな感じだったので。大学に入ってから将来について考えるようになり、ラグビーで生きていこうと考えました」
――「今を楽しく」だった春日丘高校時代から高校日本代表入りするなど将来を嘱望され、その後は当時大学選手権4連覇中だった帝京大学へ入学。大学に行かないという選択もあったなかでの挑戦でした。
「高校の宮地真先生から『帝京大学に行った方がいい』と言われて。今になってみれば、行ってよかったなと思います。親、いい指導者、きつい練習も乗り越えた仲間……。周りのサポートは手厚かったと思います。感謝しかないです。来年のワールドカップでプレーすることは周りの方への恩返しにもなる。そこにはこだわっていきたいです」
いきなりキャプテンを任され、手探りだった1年目
――帝京大学では岩出雅之監督や優秀な選手たちと一緒に、大学選手権8連覇を達成。卒業後に入ったトヨタ自動車では、かつて南アフリカ代表を率いたジェイク・ホワイト監督に主将を任されています。とにかく、出会いの「引き」がいいですね。自覚していますか。
「そうですね。運、いいと思いますよ!いい指導者に出会えて、成長していますから。(就任初年度の)ジェイクは前のチームとの契約があって、最初の合流が2017年の7~8月くらいとなっていました。ただ、5月に1週間だけ来日したときがあって、何も言わずに練習を見ていたんです。それで、ジェイクが次の日に帰るというタイミングで監督の部屋に呼ばれ、『キャプテンにしようと思う』と言われました。激震ですよね。4月はまだ会社の新人研修に行っていましたし、まともにチームに入ったのはその時の5月からでしたから。社会人という新しい環境にも慣れていないですし、チームメイトがどういう人なのかも、トヨタの文化もわからないなかで主将という立場で何かを言わなきゃいけない……。手探りでやってきたと思います」
――しかし、国内のトップリーグで重責を担いながら多くの試合に出たことが、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる日本代表への招集につながりました。
「だと、思います。ジェイミーはキャプテンシーもプレーも買ってくれていますし、1年目でキャプテンをやってよかったと思っています」
――とにかく、ずっとラグビーが楽しかったことは確かなようですね。
「楽しかったですね。ただ、けがをしてしまったときは落ち込んでいました。僕、高校のころから結構自由奔放な感じで走っていくので、膝をやる(傷める)ことが多かったんです。高校のころは、左の膝がボロボロでした。大学でもけがが多くて……。『これ以上走ったらやるな……』という『(力の)抜きどころ』が分かるようにはなった。その意味ではけがも無駄じゃないとは思いますが、自分の成長にとってもよくないもの。今は、けがだけはしないようにしています」
姫野和樹(ひめの・かずき)
ポジション:フランカー/ロック/NO8(ナンバーエイト)
1994年7月27日生まれ、愛知県出身。現所属は、トヨタ自動車ヴェルブリッツ(トップリーグ)、および、サンウルブズ(スーパーラグビー)。今秋のツアーでは3つのポジションで先発を果たすなど、この1年で急激に日本代表での存在感を放っている期待の若きホープ。ハードなランでチームを引っ張る。日本代表キャップは9(2018年11月時点)。
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