田中澄憲監督 インタビュー後編
エディーに学んだ大事なこと 「ゲームに出られないメンバー」が果たすべき役割
2019.6.17(月)
(インタビュー・構成=向風見也、撮影=長尾亜紀)
エディーに「大人にしてもらえた」
――ここからは、田中監督が出会ってきた世界的な選手や指導者について伺います。出向元のサントリーでは選手やスタッフとして、多くの名プレーヤーと仕事をされました。
「サントリーにはアラマ・イエレミア、ピタ・アラティニ(以上、元ニュージーランド代表)、ジョージ・グレーガン、ジョージ・スミス(以上、元オーストラリア代表)、フーリー・デュプレア、スカルク・バーガー(以上、南アフリカ代表)など多くのトッププレーヤーが加入してきました。イエレミアはグラウンドでもオフフィールドでも紳士的。グレーガンは遠征にスパイクを3つ持っていったり、足首をマッサージする機械をオーダーメイドで作ったりと、これでもかというくらいに準備をする。南アフリカ勢はおおらかで、オンとオフの切り替えがはっきりしています。それぞれキャラクターがあって、魅力的な人物です。ワールドカップで活躍した外国人と、それ以外の外国人はいろいろな意味で違っていました。プレー中のアドバイスに然り、リーダーシップに然り、常にチームやチームメートのことを考えて行動していました」
――サントリーでは、現イングランド代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズさんも在籍していました。オーストラリア代表監督、南アフリカ代表チームアドバイザーを歴任して迎えた2009年に同部ゼネラルマネージャーに就任。2010年からは指揮官も務めますが、その時に引退を考えていた田中選手へ「選手にはさまざまな役割がある」と告げ現役続行を促したようですね。
「それが最後の1年になりましたが、やってよかったです。エディーさんは『ゲームに出られないメンバーにも役割があり、その責任を果たしてもらう』というチームづくりをしていた。自分は葛藤しながらもその中にいられて大人にしてもらえたというか、ゲームに出られないメンバーがチームにどう関わるべきかを勉強できました」
――指揮官との個人面談も多かったのでしょうか。
「毎週、やっていました。ただ、それは1分ずつくらいです。お互い、『最近どう?』『いまチームはこんな感じです』といったふうに。カジュアルな面談の中で『見ていますよ』『気にしていますよ』を伝えるのが大事なのだと知れました。それと彼はベテラン選手にいろんなことを聞いて、何かあったらメモっているんですよね。常に勉強熱心で、常に考えています。コーチとして緻密に、しかも信念を持ってやっているからこそ結果を出したのでしょう。逆に、それくらいやらないと世界では勝てないのだろうとも感じました」
能力の高い“素材”は減っている……
――ジョーンズさんは2012年から日本代表のヘッドコーチとなり、2015年のワールドカップイングランド大会で南アフリカ代表などから歴史的3勝を挙げます。それから日本代表は体制を変え、いまは自国開催のワールドカップを見据えています。
「前回大会では3勝したけど決勝トーナメントに進めなかった。ファンにはそれ以上を求められるだけにプレッシャーはかかると思いますが、日本代表の勝利が競技力、認知度、人気を上げられたらいいですね。そうなれば、大学でも日本代表を目指す選手が増える。いま、高校生をリクルートしていますが、『すごい能力だ!』『でかい!』といういい素材は減っているんです。子どもの人数が減っている中、運動神経のいい子が野球、サッカー、人気の上がっているマイナースポーツへ散らばっているからだと感じます。競技普及の意味でも、日本代表の結果は大事だと思います」
――明治大学の選手に「日本代表を目指すべし」と促すことはありますか。
「皆が皆、目指しているわけでも、目指せるわけでもありません。能力に足る選手にはそんな話もしますけど、『ルビコン』の選手には『将来、日本代表になれよ』という前に『まず、身体を大きくしろよ』です。選手が具体的な目標を見つけるためのサポートをする。それが、僕らの役割です」
田中澄憲(たなか・きよのり)
明治大学ラグビー部監督
1975年12月28日生まれ、兵庫県出身。明治大学ラグビー部で3年生時に大学選手権で優勝。卒業後、サントリーサンゴリアス(トップリーグ)でプレーする。2011年引退。サントリーのチームディレクターを経て、2017年明治大学ラグビー部のヘッドコーチ、2018年より監督に就任。昨季は22年ぶり13回目の大学日本一に輝いた。
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