ロビー・ディーンズ インタビュー後編
「日本でもラグビーが文化として根付いてきたのを感じる」世界を知る名将の目
2019.8.19(月)
(インタビュー・構成=向風見也、撮影=山下令)
ワールドカップは初戦が最も重要 それは強豪国でも同じ
――ワールドカップでは日本はプールAでロシア、アイルランド、サモア、スコットランドと戦います。この4試合の中で、最も重要なのはどの試合になるでしょうか。
「間違いなく、初戦のロシア戦です。目の前の試合に全力を注ぐ。それが、ワールドカップというものです。先を見て戦うなんてことはあり得ません。この先はこうなる、次の試合はどうなるか、といったことを考えてはいけない。そんなことをすれば、すべてが崩れる可能性があります」
――例えばオールブラックス(ニュージーランド代表)やワラビーズ(オーストラリア代表)といった強豪国でも、それは同じ?
「同じです。特にワラビーズは初戦の相手がフィジーですから、気を抜くことなどできないはずです」
――もし、日本代表が過去に指導したオールブラックスやワラビーズと対戦することになった場合、どういう気持ちで試合を見ることになるでしょう。
「恐らく、いろいろな感情が生まれるでしょうね(笑)。私自身はニュージーランド人ですが、両チームの選手、スタッフと関係性がある。ただ、どんな結果になっても私の中では『負けはない』試合になるはずです。そういう意味では、純粋にワールドカップという大会を楽しみたいです」
「ラグビーは、自分ひとりでは生きていけないことを教えてくれる」
――ワールドカップを自国で開催するということは、どういう意味を持つのでしょう。
「まず、自国の国民の前でワールドカップという最高の舞台をプレーできるのは、選手にとって一生に一度のかけがえのないチャンスになるはずです。観客の盛り上がりは彼らにとっても大きな力になる。そういった周りの熱狂が過剰な期待となり、プレッシャーとなってしまうリスクはもちろんあります。ただ、(ジェイミー・)ジョセフさん(日本代表ヘッドコーチ)もそのあたりは分かっているはずですから、おそらく経験のある選手たちを中心に据えて戦うはずです。大切なのは選手個人がバラバラにならず、チームとしてしっかりと機能すること。そして、日本はそれをやれるだけの実力思っていますし、しっかりと準備をしているはずです」
――「観客」という意味ではまだまだ日本にはラグビーが文化として根付いていない部分が大きいと思うのですが……。
「いえ、そんなことはありません。まさに今、現在進行形でそれが起こっていると思います。試合を見る皆さんのリアクションや歓声からも、それは感じます。2009年に日本で行われたブレディスローカップでオールブラックスとワラビーズが対戦したのですが、その時の観客の反応は、ある意味興味深いものでした。ただ、あれから10年がたった今、多くの観客がラグビーを理解してくれていると感じますし、その実感は年々増しています」
――日本にも少しずつラグビー文化が根付いてきているわけですね。では最後に、ロビーさんが感じるラグビーの「魅力」を、読者の皆さんに伝えてほしいのですが。
「その質問の答えはイージーですね。ラグビーは、最も偉大なチームスポーツの一つ。なぜなら、自分ひとりではプレーできない、生きてはいけないということを教えてくれるからです。周りに素晴らしい人たちがいて、初めて自分の力を発揮できることを学ばせてくれる。そして、身長の高い選手、低い選手、体重の重い選手、軽い選手、足の速い選手、遅い選手、パワーのある選手など、すべての体格、すべての身体能力を持った選手を必要とする唯一のスポーツでもあります。どんなタイプの人間にも、チームの力になれる場がある。さらには毎週毎週、進化しないと試合に勝つこともできず、1週間の中で一生を感じさせてくれます。世界中でプレーされているスポーツなので、『ラグビーをしている、していた』というだけで多くの友情を生んでくれる人生の教師でもあります……。まだまだ、言い尽くせませんね(笑)。とにかく多くの魅力が詰まったスポーツであるのは間違いないので、ワールドカップという世界的ベントを、日本の皆さんにはその目で見て、その肌で感じてほしいと思います」
ロビー・ディーンズ
1959年生まれ、ニュージーランド出身。現役時代にはオールブラックス(ニュージーランド代表)にも選出された(通算5キャップ)。引退後、クルセイダーズ、ニュージーランド代表、オーストラリア代表などで指導者として実績を残す。2011年ワールドカップではオーストラリア代表ヘッドコーチとして3位に導いた。2014年4月にパナソニック ワイルドナイツのヘッドコーチに就任。2014-15シーズンにトップリーグ優勝、翌15-16シーズンではトップリーグ連覇、日本選手権優勝を果たす。
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